お母さん

あるあ母さんの話しです。

幼稚園に通う男の子が、「はい、これママの顔」と言ってクレヨンで描いた絵を差し出しました。
画用紙には、まん丸の顔をした女の人が「目を細めて笑って」います。
お母さんは、その時は何も考えずに絵を机にしまいました。

数日後、いつものように散らかしっぱなし、ちっとも片付けようとしない男の子をお母さんは厳しく叱りつけていました。
その時ふと、壁に賭けられた「鏡の中に映っている自分の顔」が目に入りました。
そこに見えたのは、眉も目も不機嫌に吊り上がった、いかにも「恐ろし気な顔」でした。

その晩、お母さんは布団の中でなかなか眠れませんでした。
毎日毎日、息子を叱ってばかりいるような気がして仕方ありませんでした。
叱るたびに自分では見えませんでしたが、鏡の中に映っていたような怖い顔をしていたのでしょうか・・。
机の中にしまった絵の中のお母さんは、あんなに優しそうに笑っています。
小さな息子は、いつも見慣れた怖い怒り顔ではなく、「笑顔のお母さん」を描いてくれました。

つまり、それが男の子の一番好きなお母さんの顔であり、願いだったのです。