あるがままに

ホスピス医の話し

「求めなければ満たされやすくなります」
これが終末期の患者さんが教えてくれることです。
「生きているだけで幸せですよ」と気後れするような気高い微笑みと共に、語りかけてくれます。
日常的にこういう人たちに触れていると、自らも多くを望まなくなるから不思議です。

終末期の患者さんや肢体不自由な方など、一見大変な状況に見える人たちの方が、健康な私たちより穏やかに笑顔で生活されていることが少なくありません。
ここに幸せの秘訣があるように思います。
つまり幸せは環境によって決まるのではなく、物事の捉え方次第ということです。

逝く人を見守る仕事をしている私は、必要以上に膨らんだ願望に、みんなが苦しんでいるように思えます。
望みが大きければ、思うようにならないことも多くなります。
さらに情報社会が、それぞれの分野の最高をクローズアップするので、それと比較して余計に苦しむのです。
「なるようにしかならない」と諦めるしかなかった世界より、今は「諦めにくい」がゆえに苦しいのです。

夢や希望を実現したい。
けれども、病や死は突然に人を襲い、それらを奪い取っていきます。
どんなことが起きても、どんな結果でも、あるがままに受け入れられるようになれれば、死すら恐れるものではありません。
死ぬときに後悔がなかった人たちはみんな、あるがままを自然に受け入れていたのです。

多くを求めないことです。
求めないからこそ、与えられた時の喜びは深くなるのです。