近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠
作家の渡辺淳一さんが、2014年4月に前立腺がんで亡くなりました。
僕が「あっ」と思ったのは、渡辺さんの顔が真ん丸なムーンフェイスになっているのを見た時です。
13年2月の芥川賞、直木賞の贈呈式のときなどとは面変わりしてしまっていて、すぐには誰だか分からないほどでした。
なぜムーンフェイスに驚いたかというと、何回も繰り返して抗がん剤治療を受けたことの証拠のようなものだからです。
前立腺がんの治療には、たいていタキソテールという抗がん剤を単独で繰り返し使います。
ところが、これは極めて危険な薬で、そのまま点滴するとショックで死んでしまったりすることがあるのです。
それで、タキソテールを点滴する前に、いくつかの薬を飲ませたり点滴したりして、コンディションを整えなくてはなりません。
そのコンディショニングに使われる薬の1つが、副腎皮質ホルモン(ステロイド)で、これを使うと顔がむくんでムーンフェイスになるのです。
渡辺さんは、自覚症状がないのにPSA(前立腺特異抗原)の検査をしたら発見された「FSA発見がん」だと思われます。
FSAとは、前立腺がんがあるとたくさん作られて、血液中の量が増えるたんぱく質です。
ただ、PSAは正常な前立腺でも作られているため、PSA値が高ければ必ず前立腺がんというわけではないのです。
がんが潜んでいる可能性が高まる、というくらいの意味です。