青天の霹靂

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

人間はほかの動物と違って、どんなに肉体が衰えても、死ぬ瞬間まで精神的に成長し続けることができる。
その言葉は、私の心に強くとどまることになった。
私は今、兵庫県神戸市で、主にガンの患者さんを対象とした在宅ホスピス「関本クリニック」の院長をつとめている。
緩和ケア医として、これまで1,000人近い患者さんを看取ってきた私に、青天の霹靂とでもいうべき衝撃がもたらされたのは、2019年10月のことであった。

小さな体調不良を感じ、胸部CTを撮影したところ、肺腫瘍が発見された。
精密検査の結果、ステージ4の肺がん、しかも脳転移ありとの結論だった。
そのとき私はまだ43歳だった。
妻と9歳の長女、5歳の長男を養っていかなければならない、一家の主宰者でもある。
人生の折り返し地点と思っていた矢先の重い宣告に、私は打ちひしがれ、妻と共に涙を流した。
そして、これまで看取ってきた患者さんたちの胸のうちに隠された心象風景が、私には見えていなかったことをはっきりと悟ったのである。