下座に生きる 神渡良平
野口雨情という童話作家がいます。
なかなか子宝に恵まれませんでしたが、半ばあきらめかけているときに女の子が授かりました。
だからその子を、目の中に入れても痛くないほどに可愛がりました。
ある時、雨情は動揺普及のために、地方公演に出かけていました。
ところが2歳にもならない女の子が伝染病にかかって瀕死の重体になってしまいました。
公演先に届いた緊急連絡でそれを知った雨情は、気も動転して雨の中を停車場まで走りました。
ところが雨情の祈りもむなしく、待っていたのは娘さんの悲しい姿でした。
それからの雨情は浴びるように酒を呑みました。
酔って悲しみを忘れようとしたのです。
けれども忘れることなどできません。
酔って前後不覚になる日が続きました。
ところがある日、その子が夢の中に現れました。
女の子は泣いていました。
涙にぬれた瞳を見たとき、雨情ははっとしました。
「ああ、このままでは天国に行っても娘に合わせる顔がない。お父さんはがんばったよ。悲しみにつぶされなかったよ。おまえの分まで一生懸命生きたよと言えるようになろう」と。