還暦 2

オヤジは20歳で会社に入り、35年ローンで小さな家を建てて、40年間ずっと会社一筋。
オヤジにとっての60年って、一体どんな時間だったんだろう。
60という形のロウソクが立ったケーキを見ながらぼんやり思う。
オヤジの考えていることは昔から良く分からない。
ただ誕生日会の間、オヤジは写真立てをずっと離さなかった。

数日後、写真立てにはもう1枚の写真が入っていた。
会社の送別会で集まった人々。
その真ん中に少し”はにかんだ”オヤジが立っている。
オヤジを取り巻く人たちはみんな笑顔を見せている。
その笑顔を見れば、オヤジが皆から愛されていたことが分かる。
隣には家族の集合写真が貼ってある。
僕と妹がいて、真ん中には硬い表情のオヤジがいる。
そしてその後ろに、小さいけれど立派なマイホームが写っている。

人生って何だろう?
頭で考えても分からない。
けれど人生は、私を囲むすべてのものに反映されている。
それは家族だったり、友達だったり、仕事仲間だったり、大切に使っているモノだったり。
彼らと一緒に過ごしてきた足跡の中に、人生があるのだ。
自分が一生懸命に歩んできた人生。
それに大きいも小さいもない。
やり切ったという自負があれば、それでいいのだ。