逆転の発想

老いの花道 河合隼雄

老いて非常に豊かになったことが1つあります。
それは、物忘れが豊かになったことです。
年を取ると、今までできなかったことができなくなるなどマイナスの方が多くなります。
でもそこで、「物忘れが豊かになったなあ・・」くらいに考えて、マイナスの面白さを楽しむ方がいいと思います。

日本の昔話に面白い例があります。
ある殿様が、「年寄りは60歳になったらみんな山へ捨ててしまえ!!」とお触れを出しました。
ところが、ある男は自分のお父さんを捨てるに忍びなくて、殿様に隠してかくまって暮らしておりました。
ある時殿様が、「灰で作った縄を持ってこい」とお触れを出します。
ところが誰もできません。
先ほどの男がお父さんにその話をすると、「そんなの簡単だ。硬い縄をなってそれを燃やせばいい!」と言います。
その通りにすると、灰の縄ができました。
男がそれを殿様の所に持っていくと、殿様は感激します。
そこで「実は自分の父親が教えてくれた」と話すと、殿様は自分が間違っていたことに気づき「年寄りはそういう不思議な知恵を持っているのだから大事にしよう・・」と言ったという話です。

つまり灰で縄をなうのではなく、縄をなってから灰にするという逆転の発想は、老いを考える時にも非常に大事だと思います。