愛が支えるいのち 曽野綾子
命を支えるのは衣食住です。
でも地球上の多くの土地では、この3つがそろっていません。
特に食べるものがないところが多くあります。
この間、開発途上国の貧困をたくさん見てきました。
日本でも「うちは貧乏で」と言う人はいますが、貧困と言える人は1人もいないと思います。
どういう人が貧困かというと、今晩食べるものがない人です。
非常に重大なことですが、食べるものがなければどうするかというと、3つの方法しかありません。
1つは膝小僧を抱いて我慢して寝てしまう。
2つ目は、物乞いをする。
3つ目は泥棒をする。
それよりしょうがありません。
マダガスカルの貧しい奥地に、日本人のシスターがいらっしゃいました。
シスターは助産師として、お産をする人たちの面倒も見ていらっしゃったのですが、私が訪ねると「保育器のサーモスタットが壊れていて、この間も赤ちゃんが日干しになるところだった」とおっしゃるのです。
私は日本に帰ってすぐに、新しい保育器を1つ送りました。
すると、教会で働いていたある未亡人が、保育器が入っていた段ボールが欲しいというので、何に使うのかと聞いてみたそうです。
シスターは、たとえばそれに子どもの下着を入れるとか、食器を置くとか、そんな返事を想像していました。
ところが未亡人は、「雨が降ると、うちの子どもたちが寝ているところに雨がザアザアかかるので、その段ボールを子どもたちの上にかけてやりたい」と言ったそうです。
そんな生活は、ほとんどの日本人には考えられないことです。