ココロの架け橋 中野敏治
並んだ2つの椅子に父親と彼が座りました。
彼は元気はないものの、事の重大さにまだ気がついていない様子でした。
私の前に座った父親は、いきなり立ち上がり、我が子の前で私に深々と頭を下げるのです。
その横で彼は立ち上がった父親の姿をただぼーっと見ているだけでした。
なかなか頭を上げない父親の姿を、彼は下から覗きこみました。
その時彼の顔が変わったのです。
父親は涙で目を真っ赤にしていたんです。
頭を持ち上げた父親は、ゆっくり話し始めました。
「先生、申し訳ありませんでした。ただ、ただ、情けなくて、情けなくて、息子が情けないのではなく、私自身が情けないのです。ご迷惑をお掛け致しました。親もがんばります」
横にいた彼は、初めて見た親の姿に驚きの顔をしました。
そして彼も涙を流し始めたのです。
教師のどんな言葉より、親の真剣に我が子を思う姿で彼は変わりました。
言葉ではないのです。