親からの手紙

ココロの架け橋 中野敏治

修学旅行の当日の朝、生徒たちは修学旅行へ行く楽しさが顔に表れています。
みんな笑顔で一杯です。
新幹線の中でも、そして京都、奈良に着いても子どもたちは元気いっぱいです。
様々な学習を行い、1日目の活動が終わります。
夕食を食べ終え、入浴を終えた生徒たちは、長テーブルが置いてある大きな部屋に集まりました。
それぞれが、班ごとに長テーブルの所に座り、学級委員の進行で各班からの反省の発表と翌日の確認をしました。
その後、生徒1人ひとりのテーブルに便箋と切手を貼った封筒を配りました。
そして司会者が「次は家族に旅の便りを書きましょう」とプログラムを進めました。
学級委員も自分の席に座り、ここからの進行は私が行いました。

静かにゆっくりとした口調で生徒に語り掛けました。
「みんな目をつぶって、今日までのことを振り返ってみよう。今朝、みんなの親が見送りしてくれたこと、修学旅行へ向けて今までいろいろな準備をしてくれたこと、みんなと一緒に修学旅行へ行けるようにお金を積立ててくれたこと、1つ1つを思い出してみよう」
静かに話をしながら生徒1人ひとりの席を回り、保護者からの手紙をそっとテーブルに置いていきました。

「みんな、そっと目を開けてごらん」と、生徒に声をかけました。
生徒は自分の前にある自分の名前が書かれた封筒を見て驚きました。
ある子は嬉しそうに、またある子は恥ずかしそうに、その封筒を開け読み始めました。
部屋はシーンとしています。
どこからともなく、すすり泣く声が聞こえてきます。
そのすすり泣く声は徐々に広がり、部屋のあちこちから聞こえてきました。
私には、保護者が何を書き、子どもたちが何を返信しようとしているのか分かりません。
ただ、子を思う親と親を思う子の姿が、そこには確かにありました。