老いの花道 河合隼雄
高齢者の方に接するということでは、ホスピス医の柏木哲夫先生から、とても印象的なお話をお聞きしました。
ある看護師さんが、どの患者さんからも、とても好かれているのですが、柏木先生たちお医者さんにはその理由が分からなかったそうです。
あるとき1人の患者さんが「私はもう2,3日で死ぬでしょうから、冥途の土産に」と言って、こう教えてくれたそうです。
「あの看護師さんは病室に心も体もすっと入ってくる。でも、多くの人は体が入ってくるだけで、心はよそへいっているんですよ!」
だからその看護師さんが部屋に入ってくるだけで、みんな嬉しいのだというのです。
そしてこの患者さんはもう一言「我々死んでいくものにはわかるんです!」と言われたそうです。
死に近い人は鋭いセンスを持っているというわけです。
老いの話をすると、どうしても死の問題を考えざるを得ません。
現代は便利に生きるという点で急激に発展してきましたから、どうしたら快適に生きられるだろうかと考えすぎて、どのように死ぬのかということを忘れている人が多いですね。
昔の人は、むしろ死んでからのことをたくさん考えていたのではないしょうか。
それが宗教となって「死んでも極楽に行きますよ」とか教えられてきた。
しかし、今、そんなことは簡単に信じられない。
それでも死は訪れる。
そして、死を考え、どう対処するのかは、ほとんど話し合われていません。
ある人が「旅に出るものは、行き先のことを知っているから安心していくんだ。 でも、現代人は死ぬことをほとんど知らずに生きているから不安になるんだ」と言います。