苦しんで1年生きるよりも納得して穏やかな3カ月を生きる方がよい

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

医師としてのここまでの職業人生を振り返ってみて、医学の進歩と限界をいつも同時に感じてきた。
どんなに技術が進歩しても、人が不老不死の存在になることはできない。
それは、まぎれもない事実である。

命の長さよりも質を上位の概念とする患者さんが多くなり、その意識が日本の医療界に広がったのは割と最近の話しである。
ある時期までは1秒でも長く、患者さんを長く生かすことが自らの使命であると固く信じている医師が多かったし、その考えは間違いなく主流だった。
ただし、人間 が死から逃れることができない存在であるという前提に立てば、苦しんで1年間生きるよりも、納得して、穏やかな3か月を生きる方がよいという考えも尊重されていい。

限界があるというのは、何も人間の命に限った話ではない。
ガン患者になって、どんなに人に迷惑をかけまいとして無理しても、自分の力で立てなくなり、食事をとることができなくなれば、他人の力を借りなければならない。
限界を認め、それを受け入れるということは、敗北ではなく人間の強さである。

自分自身の命の限界を受け入れることは、ときに激しい断念をともなうが、ありのままの自分の姿を認め、それを周囲にも見せることができたとき、私は理想とする美しい死に近づくことができるような気がしている。