「死に方」は「生き方」 中村仁一
老年期には肉体的な機能低下ばかりでなく、種々の喪失体験に見舞われます。
若さや健康との決別はもちろんのこと、定年退職とともに、会社、組織との別れがあり、その結果、地位や肩書もなくなり、収入の減少があり、社会的、経済的基盤の喪失に遭遇することになります。
また同時に、配偶者や肉親、親しい友人、知人との死別に見舞われる時期でもあります。
これらの喪失体験に負けてしまいますと、うつになったり、痴呆へ向かうことになります。
喪失体験は自己の内部と向き合い、内面的成熟を図れる絶好の機会です。
苦しいときこそ逃げずに、苦悩の中で開き直り、時には絶望の淵をはい回ることが必要だと思うのです。
窮すれば通ずで、必ず出口が見つかるはずだと思います。
苦悩からの脱出は、内開きの扉を開けるようなもので、外にいくら強く推しても無駄で、一度は内に開いて、自分の内面と向き合う必要があるのです。
そうすることによってはじめて、自分が勝手に生きているのではなく、諸々のものとの関連において生かされているという事実に目覚めるのです。
そして新しい世界観、たとえば「お陰様で」の世界に気づかされるのではないかと思います。