生きることの楽しさ なだいなだ
年を取ったときに、出世だとか肩書なんてものは役に立たないんですよ。
老人ホームで、私は大会社の部長だったんだなんて言っても、それが何さってみんなから言われます。
みんなの人気の的になる人というのは、自分の人生を語れる人ですよ。
詐欺師で捕まった人でも、その人生は結構面白かったりします。
年を取ってからの価値というのは、自分の人生に語るべきものがあるかかどうかということなんです。
死に対する怖れのようなものも強調されますが、私は若い時に読んだ「ピーターパン」のことを思い出します。
「死ぬっていうことは、ひょっとしたら素晴らしい冒険かもね」というセリフ。
この物語が描かれたのは、人がよく死ぬ時代でした。
5歳や6歳で病気になり、この世を去っていく子供がたくさんいたのです。
だから、子どもでも死に対してそういうふうに考えていたのだろうと思うのですが、老いることもひょっとしたら結構面白い冒険なのかもって、みんなが思ってくれればいいと思います。
年を取れば、社会的な地位を心配しなくてもいいわけです。
勤めていないのだから、クビを心配することもない。
困ったら、最後は死ねばいいだろう、と腹をくくっていられるわけです。
だから若い人が言いたくても言えないようなことを、私が代わりに言ってやろうかという気持ちになれるのです。
そういうふうに考えると、年寄りというのは、たくさんやることがあって忙しいと思います。
やるべきことを探していけば、死ぬまでにはいくらでもやることがあると思います。