いのちの言葉 臨床心理学者 河合隼雄
私は冗談でよく言うのですが、老いて非常に豊かになったことが1つだけあるのです。
それは、物忘れが豊かになったことです。
歳をとると、今までできたことができなくなるなど、マイナスの方が多くなります。
そこで「物忘れが豊かになったなあ」位に考えて、マイナスの面白さを楽しむ方がいいと思います。
あるとき、殿様が「灰でつくった縄を持ってこい」というお触れを出しました。
みんな、灰で縄をつくろうとするのですが、誰もつくれません。
しかし老人が「そんなのは簡単だ。まず固い縄をなって、それを燃やせばいい!」と言いました。
その通りにすると、簡単に灰の縄ができました。
それを殿様の所に持っていくと、殿様はいたく感激します。
そして、殿様は「年寄りは不思議な知恵を持っているのだから大事にしよう」といったとという話しです。
「うちのおじいちゃんは何もしないで座ってばかりいるから駄目だ」と考えるのではなく、「何もしないで平気だからすばらしい」と考えると、いい所が出てくるのではないでしょうか。
縁側に一日中座っているなんて、考えてみればすごいことですよね。
それに、おじいちゃんが縁側に座っているだけで、その家全体が落ちつきます。
そういう人がいることを、もっと大切にしてもいいのではないかと思います。