ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛
消化器内科の医師は、「内視鏡で調べましょう」「抗がん剤をしましょう」「手術ができそうなので、外科に相談しましょう」など、治療に関わるさまざまな選択肢を提案できる。
それはある意味で、医師としての武器ともいえるものだった。
しかし、緩和ケア病棟にやってくる患者さんたちは、すでに治療に関わる選択肢の提案をほとんど行ってきたか、もはやできなくなってしまった状態であることが多い。
緩和ケア病棟では振り回す武器がない。
そうした状況の中で、繊細な薬剤の調整や患者さんやご家族との面談、ケアを担当してくれる看護師さんやボランティアさんたちと連携しながら患者さんの看取りまでをお手伝いする。
こうしたとき、自分の腕に自信を持っている内視鏡医や外科医ほど無力感に苛まれることになるが、地域の緩和ケア医を生業とするためには、それがもっとも大切な体験となるのだ。
緩和ケアの現場においては、医師は長い時間、患者さんと向き合うことになる。
痛みに限らず、悪心嘔吐や呼吸困難など、幅広い病態生理への理解に基づく細やかな薬剤調整に関する知識は総合内科医の仕事に近い部分があり、患者さんのつらい思いを受け止める作業は心療内科の仕事にも近い部分がある。
それまでの治す側と治される側という対面の関係は、ホスピスにおいて成立しない。
むしろ医師は患者さんの横に立ち、寄り添う伴走者にならなくてはいけない。