なんとめでたいご臨終 小笠原文雄
退院を躊躇する理由の1つに、家族に迷惑をかけたくないとか、家族の介護ができないという想いがあります。
2016年10月12日、平野さん(91歳 男性 余命数週間)の奥さんと、娘さんが相談外来に来ました。
「父には認知症があり、肝臓がんです。10月17日に退院が決まりました。退院後は小笠原内科で診てもらいたいのでお願いします」
ところが退院当日の朝9時、娘さんから電話があったのです。
「父の黄疸が急激に悪化しました。昨日、病院の先生からこの状態で退院は無理だから、もう少しよくなったら退院させましょうと言われました。退院が延期になったので、退院日が決まり次第またお願いします」
「うちはどんな状態の患者さんでも受け入れていますよ。一度、院長と相談されてはいかがですか」
こう話すと、その日の午後、平野さんの母娘で来院しました。
「先生、夫は退院できるんですか。私は腰痛持ちなので病院では一緒に添い寝もできません。でも死ぬ前には夫に付き添ってあげたいんです。家なら介護はできなくてても、付き添ってあげられるかなあと思って」
と奥さんは言い、娘さんも続けて言いました。
「このまま入院していると、どんどん悪くなっていくばかりなので、本当は1日も早く退院させたいけど、病院の先生が無理だとおっしゃるので・・」
「退院は延期っていうけれど、これから良くなる見込みはあるの? 急激に悪くなったなら、家に帰れるのは死んでからになるかもしれないね。家に帰ったら、それだけで元気になるかもしれないよ。もし退院させてあげたいと思うなら、今日の午後にでも退院できるよ」
驚いた2人は、すぐに入院先の病院に電話をしました。
すると、その3時間後、平野さんは緊急退院したのです。