ホスピスケアの現場から 柏木哲夫
一般病棟では、治療のパターン化というものがありました。
たとえば、90歳の胃がんのおばあさんが徐々に弱り、貧血が強くなったとき、私ならこのまま看取るのが一番だと考えます。
しかし主治医は、それが当たり前のように、患者さんに輸血するのです。
そんな時、ホスピス先進国のイギリスで、1か月ほど研修を受けるチャンスに恵まれました。
1番の収穫は、近代ホスピスの第1号と呼ばれているセント・クリストファー・ホスピスで、世界のホスピスの母と呼ばれているシシリー・ソンダースという医者に出会ったことでした。
彼女はこう言いました。
「もし私が末期がんで入院し、痛みが強いとします。その時に私が一番初めに来てほしいと思う人は、心の悩みに耳を傾けてくれる精神科医でも、痛みが早く癒えるようにお祈りしようと言ってくれる牧師でもありません。私が一番望むのは、私の痛みがどういう原因からなり、その痛みを治すためには、どのような薬をどのような量、どのような間隔で処方したらよいかを診断して、すぐに私の痛みを取ってくれる医者が来てくれることです」
私はその言葉に参ってしまいました。
私は内科的な手段に関しては非常に弱かったからです。
DR.ソンダースは「ホスピスをやろうと思うならば、痛みのコントロール、他の症状のコントロール、内科的な知識や経験が必要だ」と間接的に言ってくれたんですね。