いのちを愛ずる 中村桂子
私たちは、お腹がすいたらレストランに行けば美味しい料理がありますし、スーパーマーケットに行けば食品がいっぱい並んでいます。
けれども、野生の生き物たちは自分で食べ物を手に入れなければ生きていけません。
チーターがものすごく速く走る能力をもっていたり、鷹が自在に飛べる羽と鋭い目を持っている持っているのも、獲物を捕らえて生きていくためです。
ところが、いろいろな生き物たちが一生懸命生きていても、結果チーターだけになってしまった、ということはありません。
小さなアリからライオンまで、いろいろな生き物が生きています。
まさに多様化です。
みんなが一緒に生きることで、みんなの命が保たれる、それが生き物の世界なんですね。
よく生きる、共生ということが言われます。
けれどもこれは、みんなで仲良くしましょうと言って出来上がったものではありません。
様々な生き物がいなければ生きていけないということなんです。
どこかに死が入らなければ生きていけないという世界の上に共生が成り立っているのです。
生の中の死、これについて大変興味深いことが分かっています。
38億年間に生まれた私たちの祖先は、おそらくたった1つの細胞でできている生き物でした。
それは分裂して増えていきます。
つまり自分の体を大きくして、それが2つに分かれて、2匹になっていくのです。
とすると、この生き物たちは死ぬということがないと言ってもいいわけです。
自分の体が2つに分かれて続いていくわけですから。
でも、人間を含めて私たちが普段目にしている生き物は、そんな増え方をしていません。
自分が死んでいき、子どもたちは生きていきます。
なぜかというと、分裂を繰り返していたのでは、同じものしか生まれません。
けれども、卵と精子を残して、それが合体すれば、2つの違う性質が交じり合った、新しい子どもが生まれるわけです。
そうすると新しいものがどんどん生まれ、多様化していきます。
多様化というのは生き物にとって、とても大事なことなのだろうと思います。