ココロの架け橋 中野敏治
後日の夕方、外は薄暗くなり、放課後の部活動も終え、生徒が学校からいなくなる時間です。
職員室で生徒のノートを見ていると、教室から何かの物音が聞こえてきました。
「ああ、また、何か教室で起きているのか?」と思い、教室へかけつけました。
すべての教室の電気が消えている中で、1つだけ電気がついている教室がありました。
それは私の学級でした。
そっと教室を覗くと、教室の中にはクラスの女子生徒が全員いました。
驚きました。
手にぞうきんを持っている生徒、ほうきと塵取りを持っている生徒、手にぞうきんを持っている生徒、そして、新聞紙をちぎってそれで窓をふいている生徒もいました。
教室の入り口に立っている私に気がついた1人の生徒が、「先生、もう少し帰る時間を遅らせていい? まだ終わらないから、いいでしょう」と声をかけてきました。
「いきなりどうしたんだ?」と尋ねると、「だって最近、教室が汚いから。きれいな教室の方がいいでしょう」とさらりと言うのです。
その場に立ったままの私に、「先生はもう少し職員室にいて。終わったら声をかけるから」と私を職員室に戻すのです。
子どもたちの力、どんなに教師が指導するより素晴らしい力があります。
心を動かされたのは私だけではありませんでした。
翌日から、紙くずが落ちなくなったのです。
紙飛行機が飛ばなくなったのです。
「ねえ、きれいにしたんだから汚さないでよ!」男子生徒に言っている女子生徒の言葉に、何もできなかった教師は本当に頭の下がる思いでした。