生き物は少し不便にできている

いのちを愛ずる 中村桂子

水が一番大事と分かっていても、水は蛇口をひねれば出てくるものと思っていますから、スマホの方が大切だということになってしまいます。
これは生きているという基本を、日常的に考えることが少なくなっているからではないでしょうか。

現代は、私たちが「便利にしよう、便利にしよう」と思って作ってきた社会だと思います。
では便利とは何かというと、「できるだけ早くやりましょう」「思い通りにできます」ということです。
スマホを持っていれば、早く、思い通りにいろいろな人とコミュニケーションが取れます。
電車もどんどん速くなっていきます。
ただ、生き物に関することに便利さを持ち込みすぎると困ったことが起こるんですね。

生き物というのは、本質的に少し不便にできているんですよ。
たとえば食べ物のことを考えます。
豚肉も、ほうれん草も、お米も、みんな生き物です。
生き物が育つには時間がかかります。
そして、それを自分でおいしく料理しようとすると、これも時間がかかります。
そうすると、それは面倒だから便利にしようと思うでしょう。
日本で食べ物をつくるのが面倒と思えば、外国で作ったものを輸入しようとします。
すると、本当に安全かな、おいしいかな、ということが分からなくなります。
やはり自分の所で時間をかけてじっくり育てて、ゆっくり料理をして、みんなで楽しく話しながら食べる。
それが生きるということですし、生き物を大事にすることだと思うんですね。