生き物に「早く! 思い通りに!」という言葉は当てはまらない

いのちを愛ずる 中村桂子

人間も生き物ですから、産むことも思い通りにならないし、じっくり時間をかけなければ子どもは育っていきません。
でも、早く大きくならないかなと思うので、赤ちゃんがぐずっただけで虐待するような、ちょっと信じられないことも起きています。
これは「なんでも早く!、思い通りに!」という考えを生き物の世界にまで持ち込んでいるために起こっているのではないかなと思うのです。
生き物ってちょっと不便で、思い通りにはならないものなんです。

生き物の中には38憶年という長い歴史が入っています。
私たち人間がこの地球上に登場したのは20万年ぐらい前のことです。
この地球上にいる生き物たちの中では一番最後に登場したのです。
人間も生き物ですから、ものを食べたり、自分の身を守ったりしねければ生きていけません。
そのためには、周りの生き物のことを知ったり、どれが食べられて、どれに毒があるのかなどを理解しておかないといけないわけです。
ですから、私たち人間の中にはほかの生き物のことを知りたいという気持ちが、本来あるのだと思います。

学問においても、ずっと生き物のことが調べられてきました。
その結果、アゲハ蝶やモンシロ蝶というように、生き物たちに名前がつきました。
それが150万種類ぐらいです。
でも、これで全部ではないのです。
というのは、学者というのはだいたい先進国にいますから、温帯の生き物のことはよく調べられても、熱帯のことはあまり調べられていなかったのです。
そこで、20年ほど前から熱帯を徹底的に調べようということになりました。
そして、ある1本の木の中にいる小さな動物や虫たちを全部集めて、1つ一つの名前を調べてみると、名前がついている生き物はたったの3%だったのです。
逆に言うと、97%は知らない生き物だったわけです。