生きる 9

50歳台の乳がんになった女性は、乳房を手術で切除したこと、再発に対する不安、辛くて仕方がないのに、その辛さを打つ開けることができずに、ストレスが許容範囲を超えてしまいました。
ある日突然、窒息してしまうような感覚が出現し、どうしようもない状況になったそうです。
パニック障害です。

この女性は病院に診察に行き、「どうぞお座りください」と言われると「すみません」と言います。
「お薬を2週間分出しておきますね」と言われれば「すみません」と返事をします。

医師が「恐縮しないでいいんですよ、すみませんではなく、ありがとうと言ってくださるとうれしいのですが・・」と言うと、「あっ、はい。ありがとうございます」とやっと笑顔で言ってくれました。

なぜ「すみません」を連発してしまうのか、話を伺っていくうちに、子どものころのお父さんとの関係が、女性を生きづらくしてきたことが分かりました。
お父さんは起業されて会社を大きくされた方で、女性が子どものころ、妹とデパートのおもちゃ売り場に連れて行き「何でも好きなものを30分以内に選んで来い。高くてもいいものを選ぶんだぞ!」と言われたことがありました。
その時女性は、「お父さんが褒めてくれるものを探さなくちゃ!」と思ってしまい、焦りの気持ちで一杯になり、うまく選べず、時間ギリギリになって仕方なく、好きでもない大きなぬいぐるみを選んでしまったという、そんな子どもでした。
寿司屋に行ったときも、カウンターに座らされ「何でも好きなものを頼みなさい」と言われ、女性は何を選んでいいか分からずにもじもじし、やっと言えたのが「かっぱ巻き」でした。
そのお父さんから、繰り返し「おまえはダメな子だ!」「がっかりだ!」というメッセージを受けるうちに、女性はお父さんといると委縮してしまうようになったそうです。

女性がなぜ「パニック障害」を発症してしまったのか、ご自身は気づいていました。
ずっと自分を押し殺して生きてきたこと、ご主人や息子さんはやさしいのですが、いつ「お前はダメだな!」と言われてしまうのではないかと不安だったこと、乳がんになり髪の毛もなくなり自分の姿を鏡で見たとき、もう我慢の限界が来てしまったのです。

彼女は、医師のカウンセラーを受け「先生、私は、ありのままの自分でもいいのでしょうか?」と聞きました。
医師は「もちろん!」と自然に答えてくれました。
そこから女性は、あえて明るい色の洋服を着るように心がけ、やがてお友達とランチにも行けるようになったそうです。