生きる 11

ガン患者さんをカウンセラーしている医師の話し

「先生、もう私の先は長くないんです。一体どうしたらいいのでしょうか・・」などと聞かれても、何と答えて良いのか全く分かりませんでした。
「若い私が何の役に立てるのだろうか。役に立てるはずがないじゃないか・・」と思っていました。
さらに、私が苦痛だったことがあります。
それは、自分が関わった方々が次々に亡くなっていくことです。
中には同年代や、自分よりも若い方もいらっしゃっいました。

病気を治すという願いが叶わず、「まだ若いのに自分だけがなぜ未来を閉ざされてしまうのだ!」という悔しさ、悲しみを抱えながら亡くなっていく場合、私の中にもその悔しさ、悲しみが形を変えて残るのです。

人には必ず「死=終わり」が訪れることを実感するようになりました。
今までそれはだいぶ先のことだと思っていましたが、「場合によっては、間もなく自分にも訪れるかもしれない・・」と考えるようになり、死の黒い影を感じました。

そして「もしかしたら自分は、充実した人生にたどりつけず、生きていても何もいいことがないまま、人生が終わってしまうのではないか?」という悲観的な考えが強くなっていったのです。

目標を失ったような苦しい時間は長く続きました。
しかし、結局私はガン患者さんとの現場に今も居続けています。

なぜカウンセラーを辞めなかったのでしょうか。
それは、残された時間が限られていることは十分に分かっていながら、精一杯その時間を生きようとしている患者さんの姿を見て、衝撃を受けたからです。
「もうすぐ人生が終わりになることが分かっているのに、なぜそんなに真剣に毎日を生きられるのか」ということが謎でした。
この仕事を続けることで、その謎が解けるのではないかと思うようになったのです。