医者ががんにかかったとき 竹村文良
がんを専門にしてきた私たちのような医者は、大部分が「自分はがんで死にたい」と言います。
それは何も、40歳や50歳で死にたいと言っているわけではないんですよ。
ある程度までは生きたい。
しかしその後は、もう感受性も鈍っているし、神経もだいぶ麻痺しているだろうし、がんにかかってもそれほど強い苦しみはないだろうから、というわけです。
それに、がんはほかの病気に比べて、自分の死期をある程度見定めることができるからです。
一生の収支をつけられる、みんなにお別れもできるということで、がんで逝きたいというんですね。
一般の方は、がんというと「えっ?」と思いますが、たとえば脳梗塞や心筋梗塞でいきなり逝くよりは、70年、80年と生きてきた人生のけじめをつけたいではないですか。
私たち医者が、人生の楽しみは何かということを話し合うときに、やはり、一番の生きがいは、何らかの意味で人の役に立つことだと思います。
ある年齢になれば、食べるといっても無闇には食べられません。
何をやるにしても、それほど大したことは望めません。
しかし、唯一過去の経験を踏まえた上で、他の人の役に立つことならできます。
そこに自分の生きがいを見つけることができれば、それが一番の幸せであろうと、そう思っています。