治る見込みが高いなら入院を勧めます

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

患者さんが感じる幸せと、患者さんの幸せを願う周囲が考える幸せは、時として正反対になることがあるようです。
一度しかない死ぬ瞬間を ”違う選択をしていたら” と後悔してもやり直すことはできません。
病院がいいか、在宅医療がいいか、悩んでいるご家族がいたら「本人の意思を尊重すること」をお勧めいたします。

2010年1月、心不全で小笠原内科に通ってきていた松尾さん(80歳 女性)から「苦しい」と電話がありました。
そこで緊急往診をすると、急性心不全の肺水腫状態だったので、緊急入院することを勧めました。
ところが、苦しくて話ができないにもかかわらず、入院の話をすると、松尾さんは首を振り、全身で”嫌々”と訴えます。
松尾さんが頑なに入院を拒否するので、妹さんに「入院を説得してほしい」とお願いしました。

「患者さんが家で過ごしたいというのに、どうして入院させるのか」「患者さんの希望が第一優先ではないのか」、あるいは「これまでの話と違いじゃないか」と思った方もいるかもしれません。
医師はどんな状況でも患者さんの希望や意思を第一優先にするわけではありません。
入院治療をして治る見込みが高いなら、入院するように勧めるのは当たり前であり、医師の倫理からも当然の義務です。

松尾さんの場合は、入院治療をすれば治り、入院しないと死ぬ可能性が高いと判断しました。
しかし松尾さんは、妹さんが必死に説得してもかたくなに拒否します。
「先生、姉がどうしても家にいたいというので、家で治療してください」
妹さんにそう言われた私は、松尾さんを入院させることは諦めて、在宅医療を行うことにしました。