ホスピス現場から 柏木哲夫
私がホスピスの現場で働き始めて、30年になります。
その間、とくに末期がんの患者さんの苦痛の緩和や精神的なサポートを仕事としてきました。
私とホスピスとの出会いは、30歳ころのアメリカ留学での体験でした。
1972年に、私は衝撃的というか、新鮮な体験をさせてもらいました。
その体験とは、1人の末期がんの患者さんのケアに携わったことです。
それは主治医はもとより、ナース、ソーシャルワーカー、牧師、薬剤師、栄養士、そしてボランティアといった方々が1つのチームを編成し、1人の患者さんのケアにあたるというものでした。
チーム全員で患者さんのケアについて真剣に話し合い、そこで決定したことを次の日から現場で生かしていくのです。
そこに私は精神科の医者として参加したというわけです。
あとひと月くらいで死を迎える人に対して、なぜこんなに熱心に討議をし、ケアの方法を考えるのかという疑問をもちました。
しかし、何度か会議を重ねるうちに、チームの人たちが病気を治すことと同様に、治らない、死を迎えざるを得ない人たちの苦痛を緩和し、精神的に支えることも、重要な医学の1部分としていることが分かってきたのです。