母親

助産師さんの手記から

赤ちゃんはお母さんにくっつきたいと思っているのに、お母さんは離れようと思っているとしたら、これは悲劇です。
赤ちゃんとお母さんは、くっついていなければだめなんです。
なぜなら、母性本能は本能として備わっているのではなく、育つものなのですから。

子育てというものは、親の犠牲の上に成り立っています。
出産自体、母親の命を削っているんです。
赤ちゃんって、母親の命を犠牲にして生まれてくるんです。
でも、母親はそうやって自分の時間を犠牲にしないと子育てはできません。
それが子供に伝わるから、いい子に育つんです。
子供を自由に嘗め回すことができるのは、せいぜい学校に上がるまでです。

死産の時って、しーんとした中にお母さんの泣き声だけが響くんです。
そのお母さんが、分娩室で死産の子を胸に抱いた後、「1晩抱っこして寝ていいですか」と言いました。
「明日には葬式をしなければいけないんです。せめて今晩1晩だけでも抱っこしていたいのです」
その夜、お母さんの様子を見に行くと、お母さんは月明かりに照らされてベッドに座り、死産の子供におっぱいをあげていました。
よく見るとお母さんは、じわっとこぼれてくるお乳を指ですくって、赤ちゃんの口元まで運んでいたのです。

死産の子供であっても、お母さんにとっては宝物なんです。
生きているなら、尚更です。
赤ちゃんが泣き止まないと「ああ、うるさいな」と思うかもしれませんが、それこそ母親にとって最高に幸せなことなんです。

幸せというのは、とっても小さなことの積み重ねです。
家族一緒にご飯を食べるのも幸せですし、親子が笑いあえるなんて一番の幸せでしょう。