なんとめでたいご臨終 小笠原文雄
水野さんが亡くなったという連絡を受けて往診に行くと
「先生、ありがとうございました。先ほど母が旅立ちました」
と娘さんが涙を流しながらも笑顔で迎えてくれたので写真を撮ることにしました。
すると、何と長女が笑顔でピースをしたのです。
しかもダブルピースです。
その場にいた全員が驚き、私は思わず尋ねました。
「えっ、何しているの?」
「先生、沖縄ではうれしいときはピース、本当にうれしいときはダブルピースをするんです。だって母が亡くなったんだもん」
「お母さんがなくなって嬉しいの?」
「だって母の余命は1か月だったんです。私はもうすぐ臨月なので、1週間後には沖縄に帰らないといけません。病院で泣き叫び、鬼のような形相で苦しむ姿が、私にとって母の最期の姿になるのかと思ったら、本当につらかったんです。母に会いたくても、赤ちゃんの胎教に悪いと思うと、お見舞いもためらわれました。母はあのまま病院にいたら、苦しんで死んでいったでしょう。でも家に帰り、昔の優しくて朗らかな母に戻ったんです。この1か月は、母にとっても家族にとっても幸せでした。これ以上嬉しいことはないじゃないですか」