ホスピスケアの現場から 柏木哲夫
ホスピスに入院した患者さんが第一に望むのは、身体的苦痛の除去です。
それがある程度うまくいくと、次は必ず精神的な問題が起こってきます。
その精神的な問題をケアしていく上で一番大切なのは、気持ちを理解するということです。
医者やナース、そして家族が頻繁に犯す間違いがあります。
それは「安易な励まし」です。
安易な励ましは患者さんが弱音を吐きたいときにも、それを抑えつけてしまうことがあるのです。
これはホスピスを始める前の話なのですが、ナースをしていた方が、末期の卵巣がんで入院してこられました。
その方が「先生、私はあと1週間くらいで死んだ両親のもとへ行くような感じがします。先生には随分お世話になったので、お役に立って死にたいと思いますが、なにかできることはありませんか?」とおっしゃいました。
私は「私のやり方や言葉、態度の中にきっと間違いがあったと思いますから、ここは注意した方がいいということを教えてください」とお願いしました。
すると彼女は「先生、1つあります。ひと月くらい前に、私が先生に『私、もう駄目なんじゃないか・・・』といった時、先生は励まされたでしょう」と切り出しました。
彼女は「私は先生に弱音を吐きたかったのに先生が励ますので、二の句が継げませんでした。そして、やるせない気持ちになりました」と言いました。
励ますのは医者として当然だと思っていました。
ところが、死が近い患者さんに「あれは間違いでしたよ」と指摘されてしまったのです。
患者さんが弱音を吐きたい時期に来たら、励ましは逆効果になってしまうのです。