
人は死ぬから幸福になれる 島田裕巳
もともと「往生」は悟りを開くことを意味していました。
解脱と同じです。
ところが日本では、死ぬこと自体が往生として捉えられるようになっていきます。
そして死者は「仏」と呼ばれるようになりました。
仏は、本来なら修業を実践することによって悟りを開いた人間のことをさします。
しかし日本では、死ぬことがそのまま仏になることだと解釈されるようになり、「成仏」は死と同じ意味を持つようになっていきます。
死ぬことによって、人は世俗の世界から離れ、煩悩から解放されると考えられたからです。
浄土教信仰が広がった時代は、社会が今とは大きく異なります。
天変地異が頻発し、戦乱も繰り返されました。
天変地異が起これば、それが食糧の欠乏に直結し、飢饉という事態が起こりました。
飢えて死ぬ人が大量に生まれたわけです。
戦乱も人のいのちを奪い、国土を荒廃させます。
そんな時代だからこそ、一刻も早く現地を捨て去り、極楽往生を果たすことが強く求められたのです。