人は死ぬから幸福になれる 島田裕巳
私たちは、今やなかなか死ねない時代に生きています。
平均寿命は大きく延び、かなりの高齢になるまで生きなければならなくなりました。
私たちは、そうした状況に慣れてきてしまっているために、昔からそうだったと思いがちです。
昔は若い人も病気で亡くなることが珍しくありませんでした。
とくに肺結核が死因の第一位を占めていた時代には、若くして肺結核で亡くなる人が多くいました。
またその時代は、戦争の時代でもありました。
徴兵制があり、誰もが軍隊に行かなければなりませんでした。
戦争で戦場に向かわなければなりません。
自ずと死を覚悟しなければなりませんでした。
「いつ死ぬかわからない」「いつまで生きられるかわからない」若い人でも、そういう感覚で生きていたのです。
ですが現在は、肺結核の数も減り、軍隊もなくなりました。
若くして死ぬ可能性は減りました。
それにつれて、死というものは見えにくいものになってしまいました。