人は死ぬから幸福になれる 島田裕巳
日本の文化を考えてみたとき、その1つの大きな特徴は、死という問題に対して強い関心を持つというところにあります。
日本人の精神文化を象徴するものとされているのが「武士道」です。
武士道という言葉は、新渡戸稲造の「武士道」という著作を通して知られるようになりました。
キリスト教からすれば、道徳の根幹には宗教があるというのは当たり前のことです。
こうした人たちからすれば、宗教なしに道徳を教えることなどできないのです。
新渡戸は、クエーカー派のキリスト者でした。
彼は武士道の中にキリスト教の精神と共通するものを見出そうとしたのです。
この武士道という本は、かなり衝撃的な内容を持っています。
というのも、切腹のことが大きく取り上げられていて、日本の武士が自らのいのちを絶つ時に、いかに覚悟を決めて切腹に臨むかがかなり詳しく述べられているからです。
武士道では、そんな例がいくつも紹介されています。
新渡戸は、とにかく「日本の武士が、いかに死を恐れなかったか」を切腹の事例から証明しようとしたのです。
それは、毅然として死の場面に立ち向かう姿を描くことで、キリスト教の殉教者と変わらないということを示そうとしたのです。