本物のがんとがんもどきは区別がつかない

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

それにしても、なぜ本物のがんとがんもどきは、区別がつかないのでしょうか?
その区別がつけば、少なくとも小澤征爾さんや桑田佳祐さんは、手術を受けなくて済んだわけで、無駄な治療をされる人も、治療の犠牲になる人も減るはずです。

残念ながら、本物のがんとがんもどきは、見た目で区別がつかないのです。
がんを診断するには、まずレントゲンやCTなどの画像検査をして、がんがあるかどうかを見ます。
がんがあれば、内視鏡検査をして位置や状態を確かめ、さらに組織をメスなどで切り取って、細胞を顕微鏡で見る「病理検査」をします。
顕微鏡で見ると、がん細胞は正常細胞に比べてサイズが大きかったり、並び方がバラバラだったりと「凶悪な顔つき」をしているのです。

この「凶悪な顔つき」というのが曲者で、結構いい加減というか、病理検査をする病理医の主観に左右されるのです。
こんな研究があります。
大腸の57個の病変を、8人の病理医が検査して、そのうちのどれががんかを診断したのです。
がんと診断した病変が最も少なかった人は、57個中9個をがんと診断しました。
それに対して、最も多かった人は36個をがんと診断したのです。
このように、そもそも人間の目がいい加減である上に、がんもどきは凶悪な顔つきをしているという難しさがあります。

良性腫瘍は、見るからに善良な顔つきをしているのですが、がんもどきはいわば、悪人顔の善人で、本当の悪人と見た目では区別がつきません。
そのため、病理医は本物のがんもがんもどきも、がんと診断するのです。