本人の希望通りに・・・

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

「世界で一番幸せ」と言ってくれた母の言葉がとてもうれしかったんです。
「お母さん、世界一なの? お父さんの日本一を超えたの? と2人で笑いあって”お母さん、私を育ててくれてありがとう”と初めて母に伝えることができました」
その2日後、静子さんは家族に見守られながら穏やかに旅立たれたのです。

「家で看取れたことを誇りに思います」
初七日の後、小笠原内科に来た娘さんの顔は清々しく、嬉しそうでした。

「最期まで家にいたい」そう願っても、一人暮らしだからという理由で反対する家族がほとんどです。
その一番の理由は「夜中に一人で死んだらどうするんだ」というものです。
一人で死んだら孤独死だと心配する方が多いのです。
でも、考えてみてください。
病院で夜中に死んだら孤独死ではないのでしょうか。
うめき声などをあげれば、夜間巡回の看護師が早く気づいてくれるかもしれません。
もしも、医師の到着が死亡前だったら延命措置を行うでしょう。
しかしそれは、生きるための治療ではなく、家族が到着するまで息をさせておくための措置であり、最期まで苦しい思いをさせる拷問のようなものになってしまうかもしれません。

それなら本人が望む自宅にいて、仮に誰も見ていないところで亡くなったとしても、それは孤独死ではなく、希望死、満足死、納得死だとは思いませんか。

大事なのは、死ぬ間際のことではなく、生きている間のことを考えてあげること、そして亡くなった患者はもちろんのこと、遺された家族も「よかった」と思える選択をすることです。