有名な大病院

私はガンで死にたい 小野寺時夫

義姉(70歳)は、乳がんによる多発性骨転移の末期となり、手術を受けた東京の有名な大病院に入院しました。
私は見舞いに行って驚いてしまいました。
義姉は「痛い、痛い」と唸り通しなのです。
姪に聞くと、入院した10日前からずうっとこうだというのです。
急ぎ足で入ってきた若い看護師2人が義姉の体位交換をしたのですが、かなり乱暴で義姉は悲鳴の連続でした。
私が呆れて鎮痛剤を増やしていただけるように頼んだところ、モルヒネの入っている点滴速度をほんの数分だけ速めましたが、効く量ではありませんでした。

その時点で、私のいるホスピスに移すことはもう遅いので、看護師に私がホスピス医であることを自己紹介しました。
そして、夕方にちょっとだけ顔を出す担当医に、モルヒネの増量をお願いしてくれるように頼んで帰りました。
しかし、義姉のうめき声は変わらず、さらに8日間続いて亡くなったのです。

この終末医療にはいくつもの誤りがあります。
まずは鎮痛剤の使い方です。
モルヒネ1日10㎎は、この状態にはあまりにも少なすぎます。
点滴輸液剤に入れて与えるのも間違いです。
モルヒネの注入速度を速めると、輸液剤の注入も速まってしまうからです。
また、多発性転移の激しい痛みには、モルヒネだけでなく、他の種類の鎮痛剤や麻酔薬の併用が必要です。
骨のカルシウムが溶け出すのを抑える薬剤も必要ですが、使っていませんでした。
さらに、痛みの緩和が不十分なのに、中心静脈栄養で1日2,000㌔㌍も与えているのは間違いです。