最後の親孝行

なんとめでたいご臨終 小笠原文雄

こういった話を2時間くらいすると、その場にいた5人全員が「家に帰してあげることが最後にできる親孝行だ」と納得しました。
ところが私は翌日、盛岡の学会で講演をすることになっていました。
そこで「申し訳ないですが、今日の午後の便で盛岡に行くんです。日曜の夜、岐阜に戻るので、月曜日の退院なら責任をもってお引き受けします。お母さんには”月曜日に退院できるよ”と話してくださいね。家に帰れるという希望の中にいる方は、亡くならないことが多いんですよ」

月曜日、土田さんは生きていました。
それどころか、少し元気になっていて、介護タクシーの中で自宅までの道案内もしたのです。
車を降りるときには、家族に支えられながらも歩いて自宅に入ったので、みんなびっくりしていました。

退院した翌日には、お友達が来て、上田さんはおしゃべりを楽しんだり、家族と過ごしていましたが、その夜、希望死、満足死、納得死をされました。
退院してから36時間後のことでした。