近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠
好機は翌年訪れました。
文芸春秋から乳がん治療について書いてほしいと頼まれまたのです。
この雑誌の影響力から見て、書けば間違いなく、乳房温存療法に対する社会や患者の認識が一変する。
同時に、村八分の冷や飯食いで終わる将来も見て取れましたが、思い切って論文を書くことにしました。
タイトルは「乳がんは切らずに治るー治癒率は同じなのに勝手に乳房を切り取るのは、外科医の犯罪行為ではないか」です。
その時に気をつけたのは、Sさんのように、勘違いして慶応の外科に行ってしまうのを防ぐことです。
そこで次の一文を入れました。
「日本では、どこの大学病院の外科でも、乳房を切ってしまうのです」と。
放射線科の初診外来は週6回会って、私はそのうち1回を担当していました。
各診療科から放射線治療のために紹介されてくる患者数は、ほかのどの外来より多かったのですが、文芸春秋発行日の翌日からゼロになり、それは僕が定年退職するまで26年間続きました。
しかし、温存療法を希望する患者が僕の外来を直接訪れるようになり、一時は日本の乳がん患者の1%を診ていました。