いつでも死ねる 帯津良一
私は、20年間、とある予備校で、医学部を希望する予備校生に講演をしていたことがあります。
毎年1回、5月の土曜日の午後に行っていました。
私の講演は、受験にはまったく関係ありません。
ですから、最初のときは、ほんの少人数だろうと思っていました。
そしたら、玄関に入るなり、教務課の人が「先生、大変です! 超満員です!」と、顔色を変えて飛んできました。
教室に入ると、大きな教室が満員も満員、通路に腰を下ろして座っている学生もいました。
たくさんの学生が集まってくれたのもそうですが、私の話しを真剣な眼差しで聴いてくれる彼らの熱気は私の胸をかっかと熱くさせました。
幕末の頃、新しい時代をつくろうとしている志士たちを前に話しをするというのは、まさにこういう雰囲気だったのだろうと、気持ちが昂るのを抑えられませんでした。
どうして、彼らはあれほどまでに私の気持ちを昂らさせたのでしょう。
いろいろと考え、「彼らは皆、挫折を経験しているからだ」という結論に行きつきました。
高校時代、医学部に入るため、彼らは一生懸命に勉強したはずです。
しかし、試験に合格できず、浪人しなければならなくなってしまいました。
10代後半の若者にとって、試験に落ちるというのは大変な問題です。
同年代の友達は大学に行っているのに、自分は予備校生だということで、肩身の狭い思いもしているはずです。
親の期待にこたえられなかったという罪悪感もあるでしょう。
目標を達成できなかった自分に対する嫌悪感もあると思います。