手術を終えて再発の不安が

医者ががんにかかったとき 竹中文良

患者さんたちの気持ちを推し量りながら、患者さんたちの気持ちを奮い立たせたり、心安らかにさせる、そういうことが術後の経過に非常に大きな結果を与えてくれるだろうと思います。
しかし、やはり外科医の生活というのは非常に忙しいわけで、1人ひとりの患者さんの心を思いやるということがなかなかできないんですね。
そこで、外科医として過ごしてきた年月と、その終盤あたりでがんになったこと、そこで得た貴重な経験を患者さんたちにどういう形で還元していくか。
これが、それからの私の人生の目的に変わっていきました。

私は、がんになって治療を受けるときには、死の恐怖や不運への嘆きなど、いろいろなことが一斉に押し寄せてくるのだろうと考えていました。
ところが、自分がなってみると、確かにおなかを切られる恐怖などはありますが、手術で治るということがはっきりしていましたから、それほど深刻な悩みではなかったんですね。
ですから、手術が終わり、さあこれで治ったと大きな喜びをもって病院をでたことを覚えています。

ところが、しばらくして「待てよ」となる。
手術が終わった、もうこれでいいと思いながら帰ってみると、今度は再発という問題が出てくるわけです。
私は自分のガンについて、主治医から再発率が大体30%前後、だから70%の確率で5年以上生きられるであろうと。
しかし、自分の身になって考えてみると、「それじゃあ、30%に入ったらどうなるんだ。5年以内に死ぬのか」と、そんなことを考えだすと非常に不安になりました。