近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠
手術をするとがんが暴れると言われる現象があるのですが、逸見さんのケースがまさにそれです。
本物のガンの場合、転移能力のあるがん細胞が血液に乗って体中を巡っています。
このがん細胞が、何かのきっかけで別の臓器に取り付き、増殖したのが転移です。
一方、手術跡に取り付いて増殖したのが再発です。
けがをした時のことを思い出してもらえばいいのですが、けがをすると皮膚が破れ、細菌が中に入り込んで化膿します。
皮膚の細胞が傷ついてバリアー機能が失われ、外敵が入り込んでしまうのです。
同じことが手術でも起こります。
切られた臓器は傷つき、バリアーが壊れてしまいます。
すると、血液に乗って体内を巡っていたがん細胞が、そこから入り込んでしまうのです。
しかも、傷ができたところは傷を治すために血管が新しく作られ、酸素や栄養分がたくさん運ばれてきます。
がんが増殖するのにぴったりの環境です。
体内を巡っていたがん細胞は、傷ついてバリアーがなくなった手術跡にどんどん入り込み、新しく作られた血管を利用して、酸素や栄養分をたらふく取り込む。
そして、ものすごいスピードで増殖していく。
これが、がんが暴れるという現象の実態です。
臓器を切っただけで、がんは暴れてしまうのです。
「そんなことを言ってもスキルス胃がんは進行が速いから、放っておいたらあっという間になくなってしまうんじゃないの?」と、心配する人もいるでしょう。
でも、それは違います。
僕のところには、スキルス胃がんでありながら、放置を選んだ患者さんが何人もいます。
しかし、逸見さんと同じくらいの進行度の人でも、逸見さんのように1年ももたずに亡くなった人はいません。
全員が数年は生き、中には10年近く生きた人もいます。
しかも全員、苦しい目にあってもいません。