ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛
「文句たれ」だったはずの人が、ライフレビューをするうちに、自分の過ちに対する反省の念や、迷惑をかけた人たちに対する謝罪や感謝の気持ちを表現され、今までの「文句たれ」がウソのように、愛と感謝に満ちた最期を飾られる様に遭遇することがあるのだ。
ある程度の経験を持つ緩和ケア医は、患者さんのご家族から次のような言葉を聞くことが必ずある。
「先生、この人は気難しい人なんです。結婚してからというもの、ご飯を作っても、洗濯しても、服を買ってあげても、ありがとうという言葉を聞いたことがありません。私はそれがつらくて、ひどい結婚をしてしまったと思いました。それが、死ぬ前になって、初めて”ありがとう”と言ってくれたのです。その時は、涙が出る思いがしました」
人間の内面を本当に理解することは大変難しいことである。
聖職者の心に悪魔が棲むこともあれば、凶悪な犯罪者の内面に高貴な魂が宿っていることもある。
よく死ぬためには、よく生きなければならない。
たとえよく生きていなかったとしても、振り返り、感謝の気持ちを取り返すことができれば、人生の帳尻は合わせられるのかもしれない。