患者さんから教わること

勇気をもって生きる 日野原重明

今にして思えば、彼女がいよいよ死ぬのではないかと感じたときに、「あなたがどんなに感謝していたか、私が代わりにお母さんに話してあげますから、安心して成仏しなさいよ」と言ってあげればよかった。
彼女に注射をするのではなく、手を握って、額の汗を拭いてあげて、静かに送ることができれば、彼女は本当に満足したのではないかと思います。

私たちが医学を研究したり、勉強する時には、よい先生についたり、教科書で学びます。
でも患者さんに触れる、その手当の仕方や、患者さんに語り掛ける言葉については、そこから学ぶことはできません。
それは実際に患者さんから教わるのだとしみじみ感じました。

今から500年前に、フランスの外科医アンフロワーズ・バレが残した言葉を思い出します。
「時に癒すが、なごめることはしばしばできる。だが、病む人に慰めを与えることはいつでもできる」
この言葉を知ってからは、医師は治らない病人に対しても、痛みを早く止めて苦しみを少なくするということを、もっとしなければならないと思うようになりました。