いつでも死ねる 帯津良一
人には誰でも強みと弱みがあります。
私の経験からすると、強みばかり見せようとする人は意外と弱いものです。
死を目の前にすれば、誰でもうろたえます。
私はそれでいいと思います。
死を不安に思い恐がることは、何も恥ずかしいことではありません。
強がりを言うのは、死を受け入れていない証拠です。
自分の心を素直に見つめて、そこに恐怖があるなら、「死ぬのは怖いですよ」と言えばいいのです。
死は怖いということを受け入れ、その気持ちをごまかさずに、落ち込むときには落ち込み、本を読んだり、人の話を聞いて、何とかそこから這い上がろうとする。
そういう過程の中で、ぱっと何かが吹っ切れることがあります。
肺がんで入院してきたある男性ですが、感心するほど気功に励んでいました。
しかし、病状は一進一退を繰り返しつつ、徐々に進行していきました。
彼の表情も次第に暗くなり、気功にも出てこなくなってしまいました。
死の恐怖や不安に押しつぶされそうになっていたのだと思います。
そういう時には、どんな言葉も役に立ちません。
しかし、彼のように、自分の気持ちをごまかすことなく恐怖や不安としっかりと向き合っている人は、あるところまで落ち込めば、気持ちも回復してくるものです。
そう思ってみていると、ある時を境に、急に表情が生き生きしてきました。
気功にも出てくるようになりました。
その数日後、私が回診に行くと、彼はベッドに正座していました。
右手をそっと出して、私に握手を求めてきました。
そしてこう言いました。
「一言、お礼を言いたくて待っていました。最後にほんとうにいい医療を受けさせていただきました。感謝します」
にっこり笑った彼は、私にはとても男らしく見えました。
その3日後、彼は亡くなりました。
自分の中の弱さを、彼はごまかさなかった。
弱みをさらけ出したのです。
だからこそ、強くなれました。
逆説的な言い方ですが、弱みを堂々と見せれば見せるほど、人は強くなっていきます。