心あたたかな医療を 遠藤順子
主人が亡くなって1週間目に、講演をしろという話が来たのにも私は仰天しました。
今まで、文章を書いたり、人の前で話すなんてことはなかったのです。
でも、何とか主人の思いを伝えたいという気持ちがありました。
それに主人は文学では、自分ができるだけのことをやったという気持ちはあったと思いますが、心あたたかな医療については、心を残して死んでしまったと思います。
だからこれは、宿題として残されたような気がしたのです。
私たち患者が願っていることと、医療側のねらいには大きなギャップがあると思うのです。
主人はよく「医者と神父と物書きは、人間の魂の中に手を突っ込んでいく仕事だ。医学の技術が人を助けられないときには、人間としての付き合いが勝負なんだ」と言っていました。
例えば家族が病室から出され、「臨終ですからお入りください」と言われて病室に戻った後、臨終までには5分しかない。
人間は誰でも、亡くなる前の数時間は肉体的にも精神的にも一番つらい時です。
その一番大事なときに、家族と引き離して、どんな医療をするのだろうと思います。
1日でも2日でも、いのちを延ばすことが本当にクオリティ・オブ・ライフなのでしょうか。
この状態ならあと24時間と分かっているのに、なおも治療をするだけが正義ではないと思います。