家にいたいのに親族が・・・

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

光代さんは病院で治療を受けた後、すぐに退院できましたが、義妹さんはその足で光代さんをグループホームに連れて行ってしまいました。
光代さんの親族には、2回も小笠原内科に来てもらい、”一人暮らしでも大丈夫。安心してください”と、1時間以上かけて説明していたので、納得してもらえたと思っていましたが違ったのです。

光代さんが入所してから2日後、事件が起こりました。
入所先のグループホームから電話があったのです。
「先生、光代さんが苦しがっています。すぐに往診してください「
私はすぐに飛んでいきました。
光代さんは、私の顔を見るなり
「先生、だまし討ちにあった! 先生、あ~あ、死なせて!」
「どうしたの?」
と私が聞くと、悲痛な声でこう訴えるのです。
「だって、いい所があるから見に行こうと言って、こんな所に置き去りにされた。だまし討ちにあった。先生、苦しい!」

その時、高血圧の光代さんの血圧は、半分近くまで下がり、冷や汗をかき、タコツボ症候群になっていると思われました。
タコツボ症候群というのは、極度に緊張すると心臓に栄養を送る3本の細い血管(冠動脈)のすべてが痙攣を起こし、心臓がタコツボのようにほとんど動かなくなる、つまり急性心不全でショック状態に陥ることです。

もう助かりません。
唯一助かる可能性があるとすれば、自宅に帰り、緊張状態を解くことかもしれない。
そう思った私は、親族の了承を得るため、連絡を取ってもらいましたがつながりません。
ソル・メドロールなどの注射を打って苦しみを和らげましたが、それも気休めにしかなりません。

まもなく意識がなくなった光代さんは4時間後、グループホームで亡くなりました。
あの時の「先生、死なせて!」という光代さんの絶望のまなざしと悲痛な声を今でも忘れることができません。