生きること、創ること 小椋佳
僕の次男は14歳の時、脳梗塞で倒れました。
幸い死は回避されましたが、左脳の相当部分の細胞が死滅していると告げられました。
全身不随で、しゃべることも、思考することもできず、また両親も兄も判別できない、まさに植物人間という状態でした。
入院当初は絶望の淵に立たされながら、この哀れな植物人間となった息子とこれから一生どう向き合っていくのかを考えました。
しかし、毎日勤め帰りに息子の病院に通ううちに、ほんのわずかずつですが、変化が起きていることに気がつきました。
最初は左手の指が少し動くようになり、次に左足を持ち上げられるようになりました。
見当外れだけど、人の名前がぽつぽつと出てくるようになりました。
おぼろげながら、本人が本人であると分かっているらしい表情を見せるようになりました。
そして、ある日のことです。
僕は毎年、少年少女たちに演じてもらう「アルゴ」という音楽劇の創作を主宰しているのですが、その舞台の主題曲を息子の脇で何気なく口ずさんでいました。
すると、しゃべることのできないはずの息子が、全曲を正確な詩で歌い通したのです。
僕の目には感動の涙が溢れていました。