下座に生きる 神渡良平
兵庫県に東井義雄という小学校の校長先生がいました。
いつも子供たちに話しかけ、子どもたちと共にあった東井先生は、卒業式で1人１人に卒業証書を渡すとき、それぞれのエピソードを話して励ましました。
「太郎君、君は３年生の時にお父さんが亡くなったけれども、お母さんががんばってくださったお陰で、今日の日を迎えることができたね」
「淳一君、サッカーの試合に敗れたのは悔しかったね。でも、そういうことを経験しないと、嵐に耐えてもがんばる精神はできないんだよ。この敗北が大切なんだね。中学校に行ってもがんばろうね」
何よりも校長先生自身が気配りを子どもたちに示しておられたのです。
だから、子どもたちが思いやり深くなっていったのは当然でした。
卒業生がこんな答辞を述べています。
「僕は用務員のおばさんに心からの感謝の気持ちをささげたいと思います。ある朝、用事があって９時過ぎに用務員室に行ったところ、おばさんが遅い朝ご飯を食べていました。教室に帰ってそのことを先生に話すと、こうおっしゃいました。『おばさんはみんなが登校してくる前に掃除をしたりして忙しいから、朝ご飯を食べるのは、どうしても９時過ぎてしまうんだよ。みんながこうして勉強できるのも用務員のおばさんが縁の下で支えてくれるからだよ』おばさん、ありがとうございました」
答辞を聞きながら、おばさんは泣きました。
一事が万事です。
学校中が和みあい、睦みあい、明るい光が満ち溢れていました。