命を頂いて生きていく

いのちを愛ずる 中村桂子

人間はいろいろな細胞でできていますが、その出発点はご両親の精子と卵子が一緒になって出来上がった受精卵です。
この細胞が分裂して2つになり、4つになりと増えていき、私たちの体をつくります。
あるものは脳の働きをし、あるものは心臓の働きをしますが、もとは両親からもらったDNAの入った1個の細胞です。

そうやってたどっていくと、人類の起源まで戻れると思います。
さらに哺乳類のもとへ、そのまたもとへ、と遡っていくと、一番最初に地球に生まれた1個の細胞にたどり着きます。
それは、おそらく38億年くらい前だと言われます。
つまり、私たちが今いるのは、その38億年があってのことですし、私たちの体の中にその歴史が入っているわけです。

生きているということを考えますと、そこでどうしても出てくるのが「死」ということです。
普通、大切なものは壊さないように大事にします。
でも命は、どんなに大事に思っていても、やがては必ず死んでしまうのです。
食べ物は生き物です。
豚や牛や鳥も生き物だから食べるのは嫌だと言って「私は菜食主義でいきます」と言っても、ほうれん草も人参も生き物です。
ですから私たちは、命は大切だということをよくわかっていながら、自分が生きようと思うと、ほかの生き物の命を奪わなければ生きていけません。
ただその時に、命を奪うというような感覚ではなくて、相手の命をいただいて、私たちが生きていこうという気持ちを持つ。
これを日本人は「いただきます」という言葉で上手に表しているのだ思います。