告知 

なんとめでたいご臨終 小笠原文雄

「マコちゃん、苦しかったねえ。でもこの3日間、救急車を呼ばなかったねえ。こうやってみんなが集まってくれたけど、本当に真実が知りたいの?」
「当たり前です。先生、本当のことを教えてください」
「わかった。じゃあ、みんなで一緒に聞いてもらうけど、マコちゃん、病院の先生からなんて言われたの? それを先に教えて」
「病院の先生には”がんは治った”と言われました。だから退院したんです」
「そうかそうか。じゃあね、病院の先生からもらった紹介状があるからね。それを読んであげるから、ちゃんと聞いてね」

「小笠原先生、いつもお世話になります。。73歳女性、咽頭がん、肺転移。抗がん剤を使いましたが、全く効果がありません。がんは大きくなりませんでしたが、これ以上抗がん剤を使うことはできません。患者には”本来、がんは大きくなっていくものです。でも抗がん剤を使ったらがんは大きくならなかった。治ったと思って退院してください”と説明しました。しかし、肺にも転移し、喉のがんも大きいです。これからさらに悪化し、呼吸困難が強くなると思います。小笠原先生、あとはよろしくお願いします。紹介状にこう書いてあるよ」
マコさんは一瞬沈黙した後  「えっ、私まだがんなの? 治ってないの? でも治ったって言われたよ」と、びっくりして声を上げました。
「マコちゃん、病院の先生はね、」がんが大きくなるのを抑えたっていう意味で、治ったっていったんだよね」
「じゃあ私、まだ大きながんがあるの?」
「そうだよ。ここに、そう書いてあるよ」
「小笠原先生、私、死ぬの?」
「「そうだよね。マコちゃん1つ聞いてもいい? ここに20人くらい集まってるよね。この中で一番最初に死ぬのは誰だと思う?」
「えっ、わ、わ、私でしょ」
「そうだね。ここにいるみんなは、多分そう思っているよね。つらいよね」